[As Seen on SDGs ACTION] 「使用済み割り箸を家具に」つなぐ循環の未来 コクヨが挑む都市型サステナビリティ
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コクヨものづくり戦略本部の高田朱音さん(筆者撮影)
オフィスで何げなく使い捨てている割り箸が、家具に生まれ変わる──。そんな循環型の取り組みを進めているのが、文具・オフィス家具メーカーのコクヨだ。使用済み割り箸のアップサイクルに取り組む循環型製造企業であるカナダ発のChopValue Manufacturing Japan(川崎市)と連携し、使用済み割り箸をリサイクルしたオフィス家具の共同開発を2025年4月から開始した。
プロジェクトを担当するものづくり戦略本部の高田朱音さんに、取り組みの背景と可能性を聞いた。(聞き手 編集部・池田美樹)
日本ならではの「都市型資源」に着目
──取り組みが始まった経緯を教えてください。
2年前にChopValue社からコクヨにアプローチがありました。ChopValue社はカナダの企業で、世界各地にマイクロファクトリーと呼ばれる小さな工場を展開し、シンガポールなど様々な場所で事業をおこなっています。
日本進出のタイミングでコクヨに声がかかり、社内で検討した結果、「おもしろいことができそうだ」ということで協業が決まりました。その後、私が担当者として引き継ぎ、2025年から共同開発が本格的に始まりました。
──なぜ使用済み割り箸に着目したのでしょうか。
ChopValue社が元々、カナダを始め海外でこの事業を手がけていたことに加え、日本が大量にお箸を使う国だということが大きな理由です。海外でも日本食文化が広がり、中華料理などでもお箸は使われていますが、使用量では日本が圧倒的に多い。ここに都市に眠る資源があると考えました。
割り箸をリサイクルして作られた特性材を使用したカウンターテーブルと壁パネル(ChopValue Manufacturing Japan提供)
注目したのは、都市型のサステナビリティだということです。人が集まる場所であるほどお箸も集まる。私には、サステナビリティというと森や農村といったイメージがあったのですが、都市にある資源を活用するという発想が新鮮でした。
また、たとえばオフィスで集められた使用済み割り箸が、そのオフィスのカフェテーブルになって戻ってくれば、利用者に興味深い体験を提供できると考えました。
実際にコクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」で計測したところ、1日あたり約260本(130膳)の割り箸が廃棄されることがわかりました。大きめのミーティングテーブルの天板を作るには1万本程度必要ですが、カフェテーブルならもう少し短期間で製作できる計算になります。
予想以上に複雑だった法的な壁
──割り箸を回収して家具にするプロセスについて教えてください。
お箸の回収には想像以上に大きな課題があります。というのも、使用済み割り箸は多くの場合「一般廃棄物」に分類され、廃棄物処理法に基づき、自治体による適切な処理が必要とされているためです。
法律上、無許可で収集・運搬を行うことは原則として認められておらず、リサイクルの第一歩を踏み出すだけでも大きな制度的な壁に直面します。この事業を担当するまで、まったく知りませんでした。
一般廃棄物はごみ集積所に出した瞬間、個人の所有物ではなく、処理を担当する自治体の所有物になります。コクヨのある場所であれば東京都港区の所有物になると説明され、「ごみが区の所有物になる」ということに驚きました。
当初はそういった法的な面について理解するため、たとえば「家庭で使ったお箸を持ち出してChopValue社に渡したら法律違反になるのか」といったことから、関係各所に質問を重ねました。
その結果わかったのは、使用済みの割り箸を勝手に渡してリサイクルを依頼すると、法的な問題が生じるということです。ごみは各市町村で管轄されていますので、環境省に相談に行っても、すぐに解決することは難しい。ごみを運ぶ許可を取ろうとしても「新規の許可は現在交付していない」と行き詰まりばかりでした。
現在は複数の自治体と連携し、使用済み割り箸を「有価物」として取り扱う検討を始めるなど、合法的な回収スキームの構築を進めています。市区町村ごとに許可が必要なため、まずいくつかの地域で成功事例を作り、それを広げていきたいと、1年以内の実現を目指しています。
回収の仕組みができれば、次はいかにして割り箸を集めるかが課題になります。コクヨの社員には分別の一環として、お箸を専用ボックスに入れてもらうことにしています。その行動に循環が感じられるように、割り箸で作るおみくじ型の回収ボックスをデザインチームが考案しました。
おみくじのような回収ボックスのイメージ(コクヨ提供)
いかにシステムに組み込むかが重要
──試作品の社内外での反応はいかがでしたか。
4月にChopValue社が主催した特別イベントでは、試作品を90人強の来場者に見てもらいました。一見して割り箸でできているとは思わない様子で、木の集成材のような仕上がりに驚いていました。
この試作品は、ChopValue社がサンプルとして持っていた箸で制作したもので、天板はChopValue社が、脚の部分は弊社の製品を取り付けて完成させました。刻印には再利用した割り箸の本数や抑制したCO2排出量を記載しましたが、特に「9667本の割り箸でできています」という表示に興味を示した人が多く、より実感を持ってもらえたと思います。
試作品第1弾となるオフィス家具(コクヨ提供
抑制したCO2排出量と再利用した割り箸の本数を表示した(コクヨ提供)
──このプロジェクトを通じて、どのような変化を感じていますか。
担当になるまでは、サステナビリティは難しいと感じていました。例えば、ペットボトルを分別しても、最終的に何になっているか、どういう過程を経ているかが実感として湧きにくい。自分がやったことがどこか他人事のように感じられる面がありました。
この取り組みの特徴は、「我がこと」にできる点です。回収側にも使用側にも、様々なタッチポイントがあり、そこに可能性があると考えています。
また、個人が頑張ることも大切ですが、いかにシステムに組み込むかが重要だと気づきました。ルールを守っていれば、特に意識しなくても結果的にサステナブルにつながる状態にしないと、個人の努力だけでは限界があります。システム化、見える化の重要性を実感しています。
社内では、ごみ収集を担当するグループ会社からも歓迎されました。毎日ごみの分別に膨大な時間を費やしているためです。
捨てる側は分別しているつもりでも、お弁当容器を開けて生ごみとプラスチックを分け、紙カップを分け、お箸を取り除き、お菓子の袋があればビニールを取るという作業が発生します。お箸が分別されるだけでも大きなメリットがあるということです。
使用済み割り箸(ChopValue Manufacturing Japan提供)
回収・分別により清掃担当者の負担が軽減され、それが多く集まって家具になり、見えるとまたやりたくなる。デメリットのない取り組みだと実感しています。
持続可能な循環システムの構築へ
──今後の展望を教えてください。
ChopValue社は北米でマクドナルドやケンタッキーのカウンターやテーブルにも導入されています。日本の方が日常的に使用するお箸の量が多いため、その分、広がりには可能性があると考えています。その前に法的な面をクリアにすることや、仕組みづくりをしっかりおこなっていくのが今年度です。
将来的には、使用された場所でお箸を家具として戻すことを考えています。様々な場所で展開できる可能性があり、例えばビルの工事現場で1年、2年と工事に関わった人々が使ってきたお箸で、完成したビルの受付カウンターを作ることができれば意義深い循環になります。
現在はテーブルの天板制作が目指す第一歩ですが、来訪者にも見せることができる場所で企業に使っていただけるようになれば、「これは社員が使ったお箸で作りました」という話になり、サステナビリティの見える化に貢献できると思っています。
今はまだ様々なチャレンジを重ねている段階ですが、こうした姿勢が活かせるのは、コクヨに「実験カルチャー」「チャレンジ文化」があるからです。まず何でもやってみなければはじまらない、という考え方です。
コクヨは、商品やサービスを通して顧客の個性を刺激し、輝かせることを重視しています。この取り組みは関係者全員にメリットがあり、持続可能な循環を生み出せる点が魅力です。そうした価値創造を目指すプロジェクトとして、今後も推進していきたいと考えています。